黄色い大群
俺が住む場所は、小学校が近くにある。そのため近所が通学路となり、登下校の時間になると、黄色い帽子をかぶった小学生が群れを成して行動する。
小学生の頃、俺はイジメられていた。登校時は集団登校だったので先生の監視もあり、イジメっ子も動かなかったが、下校時は別だった。
帰りの地域が同じ人と班を作って、帰るのだ。つまり、少人数での下校。監視役の先生もいない。イジメるには絶好のチャンスなのだろう。
人気のない路地裏で、意味もなく持ち物を盗られ、挙句の果てに殴られる。
そして、甲高い笑い声を浴びせられる。
そんな小学校生活を送っていた。
イジめっていうのは、不思議だ。たかが子供の頃の出来事で、たかが子供の出来心だが、大人の今になっても、トラウマという形で傷になって、その傷は自然治癒が効かないほどに、クレーターのように、深くえぐれて残っているのだ。
今は別に子供を見たって、震え上がるほど恐怖を感じるわけじゃないけど、向いから登下校時の黄色い帽子を見ると、反対側の歩道に避けてしまう。
今日は平日だが、たまたま仕事が休みだ。趣味のパソコンゲームをやりたいところだ。そういえば今日は、新しくノートパソコンが届くんだったな。この使い古したパソコンも使えないわけじゃないが、さすがにゲームをするには重すぎる。
昔のパソコンは、またそのうち使うとして、今はこの新しいノートパソコンを使おう。
さっそくパソコンの初期設定を終え、昔のパソコンでもやっていたゲームをダウンロードする。ブロックの世界で、自分だけの世界を構築する。というゲームだ。
最近、こういうゲーム流行ってるけど、やっぱり自分だけの箱庭を作りあげたり、冒険したりするのは、たまらないな。
もうやりつくしたほどやっているが、新しいパソコンでの新しい冒険には、やっぱり喜びが隠せない。
ゲームをやり始めて数時間、あることに気づいた。
それは、夕飯がないのだ。
これは一大事だ、一人で暮らしていると自炊をしなければならない。だが、ゲームに熱中しているとつい時間を忘れてしまう。
冷蔵庫は空っぽ。ストックのインスタント麺も底を尽き、俺は近所のスーパーまで買いに行かなければならないのだ。
ゲームを中断して、家を出る。
スーパーまで歩く最中、俺はそれに出会った。
黄色い大群だ。
そう、下校時の子供たちが群れを成して目の前から迫ってくるのだ。まだこの辺は、小学校の近く。
子供たちが大勢いる。
大勢の子供たちがこちらに向かってくる。
子供はそこまで苦手じゃない、苦手じゃないが、大勢の子供をみると、さすがに近寄りたくない。
俺は、いつものように子供たちを避けようと、反対側の歩道に移動した。
その時だった。
黄色い大群に目を奪われていて、気づかなかった。
目の前から来る車に。
鈍い音が聞こえた気がした、視界が回ったように見えた。
薄れていく意識の中で、甲高い声がまた俺を笑った気がした。